2015年1月2日金曜日

Print-039 サイアノタイププリントの個性とは?

油断してたらあっという間に4か月経ってしまいました。気ままにやっていますが、コツコツアップデートは必要ですね。小さく反省しています。

さて、Print-005で写真の個性について書きました。フィルムカメラの時代には撮影時だけでなくプリント時にも作家の意志が入り込む工程がありました。しかし、現在はデジタルカメラの性能が飛躍的に向上し、何も考えなくてもカメラがきちんと写真を撮ってしまいます。もちろんカメラを使いこなすことにより、作家の意志を写真に反映させ個性を出すことはできますが、誰でもある一定以上のクオリティの写真が撮れることが保証されているわけで、これは作家の意志よりもカメラの性能が支配的と言うことになります。

サイアノタイププリントは写真技法のひとつではありますが、広義には写真の個性の一つだと考えています。しかし、多くの人がサイアノタイププリントを始めてしまうと青写真は全く目立たない存在となってしまいます。ソフトウェアでもサイアノ調にクリック一つですることが可能です。そこで、サイアノタイププリントという狭いのカテゴリーの中で個性を出していくにはどのようにしていけばいいのでしょうか?久しぶりなので今までのまとめを兼ねて徒然なるままに書いてみます。

①感光液の作り方
 Print-016ではクエン酸鉄(Ⅲ)アンモニウムと赤血塩の2つの薬品を使った感光液を紹介していますが、塩化鉄、クエン酸、アンモニアの3つからクエン酸鉄(Ⅲ)アンモニウムと同じ役割をさせることも可能ですし、赤血塩の代わりに黄血塩を使うと、ポジフィルムを使って感光させることができます。また、クエン酸鉄(Ⅲ)アンモニウムと赤血塩の調合割合を変えてみると露光時間が変わってきます。ただし、2倍違っても大幅な効果は見られませんし、薬品ももったいないので、増減は1割くらいの間にとどめておきましょう。

②感光紙の選び方
 Print-012でいくつかの紙を紹介しました。まずは手元にある紙で試してみるのが一番簡単でいいのですが、次のステップのためには色々な種類の紙を試してみるとよいでしょう。紙が違えば露光時間と水洗時間が変わってきます。経験的に表面に何かが塗布されている紙はサイアノタイププリントには向いていないような気がします。が、これも好みの問題。必然性があればそれは個性ある作品になりうるのです。もちろん扱いやすさ、入手のしやすさも大切な条件のひとつです。中には自分て育てた雁皮で作った和紙にプリントしている作家さんもいらっしゃいます。ここまでくると、作品に対する個性が十分に伝わりますね。
 また、紙にこだわらず、布や木を使うことも可能です。ただし、紙とは条件が異なる可能性がありますので、使う場合はまずテストプリントをして条件出しすることをお勧めします。

③感光紙の作り方
 ここでは雁皮から和紙を作るといった物理的な紙の作り方ではなく、用意された紙に感光液を塗って感光紙を作るという部分にフォーカスします。Print-017Print-027でも触れていますが、感光液をどのように塗るかで見え方が大きく異なってきます。サイアノタイププリントはせっかくの手作り写真ですので、感光液の塗り方で個性を出せるといってもいいくらい大切な工程と言えるでしょう。筆もかたい毛のモノ、柔らかい毛のモノ、スポンジなどの美術用品が一般的かもしれませんが、必ずしも美術用のモノを使わなくてはいけないわけではなく、建築や工事用具のモノはどこのホームセンターでも安価で購入可能、かつさまざまな選択肢があります。私はニス塗布用のかための刷毛が好きでよく使っています。自分だけの刷毛目や道具は個性を出せると思います。

④ネガの作り方
 Print-008では誰でも簡単にできるようデジカメで撮影した写真をサイアノタイププリントのネガとして使用する事例を紹介していますが、ネガフィルムを使用しても構わないわけです。ただし、かつては一般的だった35mmフィルムでは像が小さすぎるので、大判カメラ(8x10など)のフィルムを使うこともできます。ただし、現在のデジカメ撮影に慣れてしまった場合、大判カメラを使いこなすまでには、多くの知識とスキルを身に着ける必要があります。
 フィルムカメラはネガになってしまったらどうにも変更することはできませんが、デジタルネガならば、画像加工ソフトウェア(Photoshop, Paintshopなど。簡易的にはWindows付属のPaintなどもある程度は加工可)を使ってダイナミックレンジ(ラチチュード)、ガンマ特性を自由に変更することが可能です。これは、よりサイアノタイププリントに適したデジタルネガを作ることが可能となるわけです。さらには、使用している感光液や紙の特性にあわせたネガが作れるわけです。

⑤調色をする
 サイアノタイププリントは名前の通り紺青色になるわけですが、ちょっとだけ手を加えると違う色合いにすることができます。これをPrint-026でも紹介している調色(toning)といいます。水洗中もしくは水洗後にいくつかの工程を加えることにより、青を黒、セピア、茶など異なる色に変えることができます。調色のポイントはタンニン酸を使うことです。タンニン酸はいわゆる渋味成分でお茶やワイン、柿などにも含まれていますので、作業の手間やコスト、入手容易性も考慮し調色に使う材料を選定します。調色の具体例は本ブログでも取り上げようとしていますので、気長にお待ちください。督促大歓迎です。

⑥額装をする
 フィルムカメラ(で撮影された写真)とデジタルカメラ(で撮影された写真)の大きな違いの一つとして、写真をプリントする必要があるかどうかがあげられます。フィルムカメラは写真を観賞するために必ずプリントしなければならないのに対し、デジタルカメラは必ずしもプリントすることを前提として撮影されていないということです。もちろん、デジタルカメラでも展示用の作品を撮影されている作家さんもいらっしゃるわけですが、多くの方はSNSにアップロードしたり、プレゼンの資料に使ったり、デジタルフォトフレームやパソコン上で鑑賞したりして楽しむことが主目的としていると思われます。そこで、まずは安価なフレーム(100円ショップでも購入可)で額装し、作品を自宅に飾ってみて雰囲気を楽しみ、ゆくゆくは展示会に出展するために、マットを使って美術館に展示されているような額装をしてみてはいかがでしょうか?額装の仕方で作品の見え方が大きく変わってきます。ここにアーカイバル性の高いサイアノタイププリントに個性を高めることができます。

⑦被写体
 これはサイアノタイププリントだけではなく、全ての写真にいえることですが、作品を作るためには被写体を理解する必要があります。写真を通じて自分のテーマや主義主張を訴えたい場合はなおさらです。フレームの中に入っている全てに必然性が求められるといっても過言ではありません。例えば旅行中に撮影した街並みの写真を撮ったとしましょう。もちろん一枚ものとしてきれいな写真もたくさんありますが、テーマにそぐわない被写体が含まれている場合がありますし、春夏秋冬朝昼晩を通じてこの写真が自分の作品にとってベストなのかを考えながら撮影する必要があります。こちらも例えばですが、富士山の写真を撮られている多くの方は何がベストなのかを考えて撮影されているような気がします。もちろん撮影者のテーマによって何がベストなのかは変わります。自分で考えることが大切なのです。


ちょっと難しかったでしょうか?
次こそは調色の具体例に取り掛かりたいと思います。


参考文献
荒井宏子「手作り写真への手引き」写真工業出版社 1994
Malin Fabbli and Gary Fabbli 「Blueprint to cyanotypes」 alternativephotography.com 2006
Peter Mrhar 「Cyanotype Historical and Alternative Photography」 2013


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